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幅 : 7.5cm 高さ : 8.7cm
本作には、奈良・薬師寺東塔の基壇を大修理した際に採取された古土が調合されております。鉄分と珪酸を豊富に含むこの土は、千三百年という悠久の歳月で鉱物結晶を内包し、焼成後も石英粒が星屑のように煌めきます。掌に取りますと、大和の大地と古塔の祈りが静かに伝わってまいります。
釉薬を掛けずに約1250℃で焼締めることで、胎土中の鉄分が還元・酸化を繰り返し、①全面に鉄黒から焦茶へ移ろう金属光沢 ②胴の上部には降り掛かった灰が自然釉となり、苔青が滲む ③微細な銀点が散り、礎石を濡らす夜露のように輝く という複層的な景色が生まれました。苔むす塔基壇の表情をそのまま写し取ったかのようです。
口縁をごく僅かに外反りに取り、胴をストレート気味に立ち上げた筒形でありながら、中ほどに刻まれた五本の轆轤目が、基壇石の層理を思わせるリズムを刻んでいます。底部をやや絞って低いリング状高台を設け、視覚的にも手取り的にも安定感を高めております。
外肌のざらつきが指先に心地よく、熱い煎茶・ほうじ茶を注げば胎土が穏やかに熱を蓄え、冷酒を注げば鉄肌が酒温をゆるやかに保ちます。薄く研ぎ出した口縁は唇当たりが軽やかで、香りと味わいをすっきりと届けてくれます。
薬師寺は天武天皇の発願(680年頃)に始まり、平城遷都直後の和銅年間に現在地へ遷座したと伝わります。東塔(730年頃完成)は創建当初の姿をとどめる唯一の奈良時代塔で、「凍れる音楽」と称される優美さを誇ります。幾度もの戦火と火災を乗り越え、令和の大修理を経て再生したその祈りの象徴が、本作の胎土として新たな命を得ました。
鉄黒の光沢に苔青の自然釉が滲み、轆轤目が古塔の石層を想起させる――尾西楽斎作「薬師寺東塔基壇土 焼締め湯呑」は、掌に侘びと崇高さを同時に宿す珠玉の器でございます。一服の茶あるいは一盃の酒を味わうひとときに、千年の祈りと再生の物語がそっと寄り添ってくれることでしょう。
薬師寺境内の土100%使用、不純物を徹底除去した本作は、澄明な美しさが特徴。悠久の時を経た土は均質で、焼成により濁りのない艶と、焼締めでは古瓦のような穏やかな色合いを呈します。滑らかな肌理と歪みにくさも魅力。千三百年の歴史を宿す土の物語が、手に取るたびに安らぎを与えます。素材と美しさ、精神性を兼ね備えた特別な作品です。
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